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仙台高等裁判所 昭和45年(ネ)347号 判決 1970年10月12日

控訴人

武藤重子(仮名)

代理人

寺井俊正

被控訴人

神戸健一(仮名)

代理人

小野善雄

主文

原判決を取消す。

本件を青森地方裁判所に差戻す。

事実《省略》

理由

控訴人の本件訴は離婚判決により親権者及び監護者と定められた母親である控訴人からその権限に基づいて父親である被控訴人に対して子の引渡を求めるものであるところ、原判決は本件のような離婚した夫婦間の子の引渡を求める事件は家事審判法九条一項乙類四号の家事審判事項であるから、本件訴は不適法であるとしてこれを却下したので本件のような子の引渡を求める事件が訴訟事項か否かについて考察する。家事審判法九条一項乙類四号の規定は、民法七六六条一項及び二項(同法七四九条等によつて準用する場合も含む。)の規定によつて家庭裁判所が決定処分すべきものとせられた事項を家事審判事項とし、これを審判によつて行うべきものとしたものであることはその規定上明らかである。しかるところ、民法七六六条一項及び二項は、父母の協議が調わないときは家庭裁判所が子の監護者の指定、変更をなすこととし、その監護者の指定、変更に附随して、新に監護者に指定された者がその職務を十分に果しうる状態とするため、父又は母に対し子を監護者に引渡すべきこと等の監護に関する処分をもなし得ることとしたものであるから、家事審判法九条一項乙類四号は子の監護者の指定、変更を主とし、これに附随してなす子の引渡等の監護に関する処分を家事審判事項としたものと解するのが相当であつて、右規定が子の引渡等に関する事件を独立に子の監護に関する処分として家事審判事項としたものと解することはできない。家事審判規則五三条も監護者の指定、変更の審判において附随的に子の引渡等を命じ得ることを定めたものであつて、右解釈を前提としたものにほかならないと解される。

しかして、本件のような離婚の際に親権者、監護者と定められた者からその権限に基づいて他方の親に対して子の引渡を求める事件が訴訟事件に属することは、最高裁判所の判例(昭和四五年五月二二日第二小法廷判決、判例時報五九九号二九頁、判例タイムズ二四九号一五〇頁参照)に徴しても明らかであつて、現行法の下においてはこのような子の引渡を求める独立の事件をも家事審判事項と解することは根拠に乏しく困難といわなければならない。

してみると、本件は訴訟事件として処理すべきものであるから、本件訴を家事審判事項を対象とした不適法な訴であるとして却下した原判決は相当でないといわなければならない。

よつて原判決を取消すこととし、民事訴訟法三八六条、三八八条に従い、主文のとおり判決する。(松本晃平 伊藤和男 佐々木泉)

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